限界,決壊。拾壱
その事を思い出している少しの沈黙を本居はどう受け取ったのか。
ゆっくりとその手を睦月から離した。
「円さんは?今日デートだったんだろ」
その手を逆に掴んで,立ち上がろうとする本居を捕まえる。
「別れた」
手を引く本居を逃がさないと力を籠めれば,眉間に皺を寄せ小さな声で離してと言う。
「なんで?」
理由なんてわかっているけれどわからないふりをして訊く。
「…なんでって,どっち?」
「別れたって方」
知っている。
でも聴きたい。
言ってくれないとわからない。
籠めていた力を抜くと自らの手を引いていた本居はそのまま後ろに倒れ,壁に背をついた。
「…っ」
「なんで?」
俯いていた本居は視線を向ける。
睦月の顔を見て,溜め息をひとつ。
それから困った様に笑って──。
「…気付いちゃったってゆーか,気付かないフリしてたってゆーか」
自由な片手を睦月に伸ばし,その頬に触れる。
ふわふわぱりん。 そんな心の本の虫。 文字をむしゃむしゃ音をぱくぱく。