七十七話
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「……お願いが、あるんだけど…」
桔梗が出会ったばかりの時の様な小さな声で呟かいた。
相変わらず俯いた顔は陰っていて見えない。
どんな心情だろう。好きだと言い、離さないと言った相手に裏切られるというのは。きっと、許せないし憎い。
そう思うからこそ、次に出た言葉に俺は驚愕した。
「…もう、こんなこと、しないで」
そう言い、傷ついた腕を撫でた。
「自分を、大事にしてよ…、こんなの、もう駄目だよ…?」
撫でる手つきはいとおしげで、壊れ物を扱うよう。
「……それだけ?」
自分から離した手は、言葉と裏腹にまだ離れたくないと言う。
まだ一緒に居たい。
そう思うのに、自分は別れを告げた。
「…ごめんね、桔梗君」
顔を上げた桔梗は、無理してると分かる表情で微笑んだ。