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小説 短編 言いたくて、言えなくて。

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今度は俺がはっとする番だった。彼女を見つめると自分の手を見て幾分か驚いているようだった。どうやら血が出るほどガラス片を握りしめていたことに気づいていなかったようだ。

「ユキ、俺、「こんなもの、要らなかった。欲しくはなかった。私が欲しいのは…」

そこまで独り言のようにつぶやいて、俺と目を合わせた。ずくん、ずくん、どくん。胸が違う音を立てる。どくん、どくん、と。

身体が、顔が、熱い。

それは彼女が俺に対して初めて敬語なしで話したことに対する好奇心か、それとも彼女の透き通る瞳に…。

「…失礼しました。」

彼女がガラス片をエプロンで包み、出て行く。代わりに外に待機していたであろう執事が入ってくる。

「…良いのですか。」
そう問うた年配の執事は血で汚れた札束を拾い上げる。
「新しいものは御自分で、…よろしいですね。」
「…あぁ。」

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